救急救命士ともよく似た響きを持つ救急看護師。確かに、一般病棟とは異なり男性看護師の割合が高い分野ではあります。
ここでは、救急救命センター等に所属し、一般病棟勤務者とは異なった業務に携わる救急看護師の実態をレポートしていきます。

救急看護師に最重要なのはトリアージ技能!

救急看護師になった場合、当然ながら病棟の看護師とは異なる仕事が数多く求められるので、仕事内容をきちんと把握した上で救命救急センターへの転職を考えるようにしてください。こちらでは救急看護師に求められる特殊な仕事の一例として、トリアージについて解説します。

救急看護師に求められる仕事~トリアージ

救急看護師:トリアージ特に医師数の足りない病院に勤めた場合、救急看護師がトリアージを行うことになります。

ちなみに休日や夜間の救急外来受診者に院内トリアージを行った場合、院内トリアージ実施料加算という診療報酬が発生します。

その報酬授受条件としては、実施基準を定期的に見直していることや、患者にトリアージ実施を周知していることに加え、専任の医師または救急医療に関して3年以上の経験を持つ専任の救急看護師を配置していることが要求されます。

医師不足の場合、救急医療の経験豊かな看護師の存在が必須になるわけですね。

トリアージ基準にはCTAS(カナダトリアージ緊急度スケール)や日本独自のJTASといったものがありますが、院内独自の基準を用いることも多くあります。

トリアージを行うには医師が学ぶ“診断学”に近い知識が必要ですが、看護師は診断学を学んでいませんので、現場でトリアージを覚えていくことになります。

なお、災害時などに野外でトリアージを実施する際に用いられるタグ(右上画像参照)で定義されている識別基準は以下の通り。

●トリアージタグの定義

  • 黒色タグ:死亡、または当該時点の医療設備では救命が絶望的なもの。基本的に治療は行わない。
  • 赤色タグ:最優先要治療者。現場の状況によっては、患者を1つ上の黒色タグに繰り入れるという厳しい選択を迫られる。
  • 黄色タグ:治療待機者。生命にかかわる程ではないが、挫滅症候群などの可能性も考慮して選別する必要がある。
  • 緑色タグ:救急処置が不要な者。まったく治療が必要無い者も、こちらに分類される。

トリアージは、フランス語のtriage(選別/選択)を語源とする言葉で、本来は戦争中の野戦病院などで用いられてきたもの。

医療に携わる身としては、黒色タグと赤色タグの選別を行うという行為は、我が身を切られる程厳しいものですが、医療資源が限られた状態では絶対に必要になってくる行為です。医療技術としてのトリアージ法を習得する以上に、その“覚悟”を充分に学ぶ必要がありそうですね。

救急救命士と救急看護師はどう違う?

実を言うと、法律的な側面では看護師のほうが救急救命士よりずっと幅広い仕事を行えます。

救急救命士に許されていて看護師に許されていない医療行為といえば気管挿管1つだけ。救急救命士の資格を持っていることで看護師として何か有利になるというものではありません。しかし、救命救急センターで長年働いていた看護師の中には「救急救命士の資格が直接必要ということはないけれど、搬送されてきた救急患者にどういった処置が必要なのかを考える上で、救急救命士資格を取得するために学んだ知識を活用できる」と主張する方も多くいらっしゃいます。

もし、救命救急センターを志望していたり、ドクターヘリのフライトナースを目指そうという方がいれば、救急救命士資格を取得しておいても良いのではないでしょうか。特別な経験やスキルが何もない人よりは圧倒的に有利になるはずです。

救命救急センター看護師の体験談

それでは、実際に救命救急センターで働いている救急看護師さんの声を聞いてみましょう。仕事をしている人の話を聞けば、救急看護師の実態が見えてくるはずです。

29歳・女性看護師のお話

精神科の女性看護師新卒の看護師さんで救急やりたいって人には基本的に「やめといたほうが良いよ…」って言うんですが、転職で来る人は良いんじゃないでしょうか?

私自身、脳神経外科と循環器科を経験してから救急に来てるんですが、そうじゃなかったら務まらなかったかもしれないです。というのも、救急には怪我人と病人が両方来ますし、病人は病人でも消化器から循環器、血管の疾患までまぜこぜに来るじゃないですか?他の科に行ったことがない人が来ても、多くの場合、何が起きてるのかさえ良く分からないと思うんです。

それに、どうにかこうにか救急の仕事をこなしたとしても、そこで覚えられるのは救急看護師にしか必要ないような仕事と、色々なケースの浅く広い知識だけ。1つ2つはどこかの診療科目で“自分はこれなら専門的に分かる”っていう得意分野を作ってから来たほうが良いです。

32歳・男性看護師のお話

男性救急看護師のお話救急と手術室は個人的に男性向きの部署だと思います。救急だと患者が来る度に頭の中で仕事の優先順位を組み替えて、何を先にこなすべきか順位付けをしていく能力が必要です。女性の前では言えませんが、こういった判断力は基本的に男性のほうが高い。

別に男女の能力差を強調したいわけではなく、将棋のプロになったり囲碁のタイトルホルダーになったりする人が男性ばかりなのと同じ理由じゃないかと思ってます。逆に患者さんに優しく笑顔を向けたり、精神的なケアを含めてやっていかなければいけない病棟看護師は女性のほうがずっと優秀でしょう。そのあたりは、どっちが優れてるとかじゃなくて、向き不向きなのかなと。

20人に1人しかいない男性の看護師であれば、無駄なく適材適所に配置されるべき。機会と意欲があるのなら、救命救急センターやオペ室にチャレンジしてほしいです。

以上から、救命救急センターに最適なのは、“他科の経験がある男性看護師”という結論に落ち着きそうですね。忙しくプレッシャーも多い救急看護師ですが、自分の力で生命を救ったんだという実感が湧く、やりがいのある職場ではないでしょうか。

向上心あふれる男性看護師の方は、是非ともチャレンジしてみましょう!明日の救急患者を救うのはあなたです!

救急看護認定看護師を目指す手も

21分野にわたる認定看護師の領域の1つに救急看護領域が存在し、救急看護認定看護師という資格があるのをご存じでしょうか?

優れた救命技術を持ち、瞬時に患者の状態を判断できることが求められる救急医療現場において、強いリーダーシップを発揮できる看護師は貴重です。また初期・2次救急の現場で患者の重症度、緊急度を判断するトリアージナースにも、救急看護認定看護師の資格が役立つでしょう。

救急部門での勤務経験が3年以上あり、呼吸不全、循環不全、意識障害などの患者を5例以上ケアした経験がある看護師ならば、救急看護認定看護師資格を得るための研修を受けることができるようです。

今後、ドクターヘリや救命救急センター勤務を考えておられるなら、検討してみても良いのではないでしょうか。

医療コラム~救命の雄!救急救命士

病棟勤務の看護師をしていると周囲は女性ばかりですが、救急救命士は逆に男性ばかりの職場です。

救急救命士一般的な働き方では消防士の一員として消防署に勤務。救急車内で救急救命士の有資格者だけが許される救命処置を行って生命を維持し、患者を病院まで搬送するという形になります。

ただし、心配停止中の患者に行う救急救命処置の一部は特定行為と呼ばれ、医師の指示の下でしか行えないなど一定の制限があります。特定行為に含まれるのは、気管挿管やラリンゲアルマスクを用いた気道確保、静脈路確保など。以前は自動体外式除細動器(AED)による処置も特定行為に含まれていましたが、現在は具体的指示がなくても行って良いとされています。

実は救急救命士の歴史は浅く、救急救命士法ができたのは1991年。

それまでは医師法の制限があるために、救急車というのは搬送するだけの存在で一切の治療や救命行為が許されていなかったのです。しかし、救急車内で何も出来ないために日本の心肺停止患者は社会復帰確率や救命率が低く、他の先進国に大きな遅れを取っていることが問題視されるようになりました。

そこで、フジテレビのFNNスーパータイムに出演していた黒岩祐治氏(現神奈川県知事)が報道特集を組み、救急救命士の必要性を訴えたのです。この報道が世論を大きく動かし、ついに日本にも救急救命士が誕生したのでした。

ジャーナリズムが法の歪みを正すというのは、諸外国ではともかく日本ではかなり稀な出来事です。救急救命士がこんなにもドラマティックな誕生の仕方をしていたことをご存じだったでしょうか?