ここでは、医療スタッフ不足を解消するために、岩手県が取り組む看護師支援制度を紹介。現状を打破するために、これらの制度を利用するも良し、認定看護師等の上位資格習得に活用してスキルをアップを図るもよし、この機会に是非これらの公的支援制度について学んでおきましょう。
看護師の育成支援を受け、転職を有利に
岩手県を含めた東北地方は看護師不足が深刻な地域として知られていますが、県としては一定の解決策を打ち出しています。
看護師を育成するための研修制度・支援制度が充実しており、優秀な看護職員を充分に配置できるようにサポートを実施しているのですが、ご存じでしょうか?
新人看護師だけでなく中堅看護師を対象とする研修もあり、さらには潜在看護師の再就職や認定看護師を目指す人に向けた支援体制も確立しているのです。
さらに県だけでなく、岩手医科大学でも認定看護師教育課程が開設されており、意欲のある看護師にはキャリアアップ&スキルアップの道が開かれています。
新人看護師が業務内容を把握するための研修から、ブランクのある潜在看護師に最新の看護技術を習得させるものまで数多く揃っていますから、自分にとって必要な研修が何なのかを見極め、着実にステップアップして頂ければ幸いです。
研修内容は大きく分けて、現職の看護師の資質向上を目指すもの、一度現場を離れた看護師を対象とするもの、そして認定看護師の養成を主軸としたものの3つ。現状では、看護職員の大幅増が夢物語である以上、1人ひとりの質を高めることで、人材不足を補うということに重きがおかれているようですね。それでは1つ1つ詳しくみていきましょう。
岩手県の看護職員資質向上推進事業
看護職員専門分野研修と中堅看護職員実務研修に分かれていますが、基本的には、看護師がより専門性の高いケア技術を身に付け、かつ医療事故を防止するために必要な技能を培うことが目的。主催しているのは厚生労働省ですが、一部研修の実施は岩手県看護協会に委託されています。
看護職員専門分野研修は1回あたり半年くらいで、合計600時間の研修を実施。中堅看護職員実務研修は15日前後で、5日間の実地研修を含みます。
研修内容は状況に応じてさまざまですが、こちらでは岩手県に委託されている中堅看護職員実務研修である“がん看護”についての研修をご紹介します。
がんのケアに関する研修では、“最新の化学療法におけるケア”や“最新の放射線治療におけるケア”といった最新治療に対応するための研修が行われます。また、近年ではQOL向上を主眼とした終末期ケアにも注目が集まっているため、“疼痛に関するケア”の研修なども行われているようです。
その他、脳卒中のリハビリケアや早期離床を目指すためのケア、認知症の進行を遅らせるためのケアなど、最新の治療に適応するために必要な技能を身につけることが可能になっています。
この他にも、複数の研修が行われていますので、以下に概要を掲載させて頂きます。
岩手県に委託されている看護職員研修
参加条件は、臨床経験が5年以上で、うち3年以上にわたってがん患者の看護を経験している看護師であること。期間は15日間。
参加資格は主任、看護師長または、それに類する任にある看護職員です。期間は3日間。
参加資格は准看護師であること。患者及び患者の家族に対する看護ケア実践能力向上が主目的で、期間は2日間です。
参加資格は助産師であること。助産師外来の開設に向け、安全なお産の提供ができるように知識、技術の向上を行うものです。
期間は4日間。
岩手県の潜在看護職員等復職研修事業
潜在看護職員等復職研修事業とは、資格を持っていながら、結婚・出産などを機会に離職した潜在看護師・潜在助産師が、スムーズに再就業できるように支援するために行われている事業です。
人材不足の解消手段として、既に資格を持っている方々の復職は非常に有効。現在、日本国内には潜在看護師が55万人もおり、その内の10%、つまり5万5,000人程度でも現場復帰してくれれば、看護師不足はたちどころに解消すると言われているほどなのですから。
右も左も分からない新卒看護師とは異なり、再就業する意思のある看護師・保健師・准看護師・助産師に最新のケアに関する研修を施せば、即戦力として現場に復帰させられます。岩手県で実施されている復職研修は、ブランクがある看護職員に1回あたり3日以上の研修を行うことで看護師として就業できるレベルまで引き上げるというもの。これらの人材再登用計画は、厚生労働省の強い後押しの下に実施されており、その中でも岩手県は全国1位の補助額を得て、県内の潜在看護師に向けて手厚い復職支援を行っています。
全国的にも潜在看護師の復職が看護師不足を打開するための解決策として注目されているのですが、子育て支援の不足、ブランクのある看護師が復帰に不安感を持っていることなどから、思うように実現していないのが現状。潜在看護師の71%が復帰前研修を希望している事実からも、こういった研修事業が浸透していくにつれ、潜在看護師の復帰が増えていくと期待されています。
岩手医科大の緩和ケア認定看護師教育課程
岩手医科大学の高度看護研修センターでは緩和ケア認定看護師を育成するための教育課程が設けられています。これは5年以上の実務経験を持ち、かつ3年以上にわたって緩和ケア領域での勤務実績がある看護師に対して、認定看護師になるための教育プログラムを提供するものです。
看護管理や臨床薬理学といった科目の他、スピリチュアルケア、臨死期のケア、緩和ケアにおける倫理的課題といった専門科目が設けられており、緩和ケアのスペシャリストになるために必要な技能を磨くことができます。総時間数は664時間とかなり長いですが、充分な力量を備えた認定看護師になりたいのであればチャレンジする意義は大いにあるでしょう。
緩和ケア認定看護師教育課程のカリキュラム
看護管理、対人関係、情報管理、看護管理といったマネジメント関連分野を学ぶ科目。総計150時間。
緩和ケア総論、臨床倫理、ストレスマネジメントなど緩和ケアの基本を学ぶもの。総計75時間。
緩和ケアを受ける家族への支援、緩和ケアのチームアプローチ法などを学ぶ科目。総計199時間。
実技演習や臨地実習、ケースセミナーなど実戦形式の技術を学ぶ科目。総計240時間。
受講にあたって選抜試験に合格する必要がありますが、まだ2014年度以降の情報は出ていませんので、詳細岩手医科大学に問い合わせて下さい。
現在、日本看護協会が認定する認定看護師資格は、21の分野が存在していますが、この緩和ケア資格もその1つ。
この資格を持つことで、職域や給与等級も格段に向上しますが、それ以上に緩和ケアという、患者さんの“心”を救う看護を行えるというのが一番の魅力でしょう。だからこそ、緩和ケア認定看護師の養成課程には、肉体的苦痛を減らす疼痛ケアなどの他、精神分野でのケア技術も含まれているのです。
医師が、物理的に病苦を取り除く“治療行為”の専門家だとするならば、看護師とはまさに精神面を含めたQOL向上を担うプロであるべきなのですから。