「看護師=女性」という考え方はもう古い?ここでは、近年急増する男性看護師の実態に迫ります。

男性看護師は伝統ある職業だった!?

男女平等が叫ばれる今の時代、なぜ、看護師が女性のための職業であると認識されているのでしょうか?

フローレンス・ナイチンゲールそのきっかけとなったのは、もちろん皆さんもご存じの1人の女性。クリミア戦争の傷兵を看護するために38名の女性を引きつれて戦地に入った看護師の祖、フローレンス・ナイチンゲールです。この時に敵味方関係なく看護を行った事実が人々の心を動かし、1860年、ロンドンに世界最初の看護学校が開かれました。

これにより、看護が宗教的な奉仕活動から、職業へと変化したわけです。ナイチンゲールは看護職を徹底して宗教から分離。きちんと体系づけられた職業形態としてまとめあげました。こうして、近代看護師の制度が確立し“結果的に看護師は女性の職業”というイメージが定着したというわけです。

しかし、それ以前において、看護師は女性の職業ではありませんでした。女性の職業ではなかったどころの話ではありません。元を正せば看護師というのは男性の仕事だったのです。17世紀のヨーロッパで、男性修道士たちが奉仕活動の一環として病院の看護を行っていたのが看護師という仕事の起源だからです。

もともと看護という行為はキリスト教の宗教観である“隣人愛”と強く結びついたものであり、ホスピタルという単語そのものが“巡礼する人や異邦人、貧民を受け入れてもてなす”ことを意味したホスピタリティという語を転用したもの。その後も中世の宗教騎士団だったヨハネ騎士団などが騎士修道会を結成して巡礼病院を開設した記録が残っており、病院というものがキリスト教的な慈愛精神の具現として始まったとさえいえるのです。

看護団が完全に組織化された最初の例としては、十字軍の傷兵を受け入れるために設置された修道士看護団が知られています。戦時には十字軍の病傷者を看護し、普段は宗教行事の主催を仕事としながら慈善活動として療養所を運営していたそうです。騎士団の看護団と修道士の看護団、これらが看護という仕事の真のルーツでした。驚くべきことに、現代にも残っているナースキャップという物は、修道士がかぶっていたベールが変化したもので、ナース服のデザイン自体も修道衣がルーツなんだとか。

看護を男性が手がけた時代が過ぎ去り、ナイチンゲールの活躍によって女性の手へと渡りました。そして今、男女の隔てなく適性のある人が看護師となるべき時代の幕が開こうとしています。今、看護師をしている男性はその先駆け的な存在。1日も早く、看護師という職業が性別の枷から解放されるよう、頑張っていきましょう。

男性看護師の復権

これまで、男性看護師は患者を監視したり押さえつけたりする必要がある精神科や、機材の運搬を必要とする手術室周辺の仕事を中心として僅かな需要があっただけでした。

ですが、男女雇用機会均等法、男女共同参画社会基本法が整備されていくにつれて、女性だけでなく男性がともすると差別的に扱われる職業についても是正されなければならないという考え方が浸透。今では看護婦という言葉は撤廃され、看護師という呼び名が使われるようになりました。

今後、高齢化を迎えるにあたって介護施設・福祉施設などで一層の看護師需要が見込まれます。そうなれば男性にとって職業選択肢の1つとして当たり前に“看護師”が存在していることが重要になってきます。それだけでこれまでの2倍程度の看護師志望者が見込めるわけですから。

こうして“看護師=女性”のイメージが薄まっていけば、いつの日が看護師には男女どちらもいて当たり前という時代がやってくるでしょう。その時こそ、本当の意味で男性看護師が復権するのです。

その時を少しでも早く迎えるために、男性看護師の仲間がこれから急速に増えていくことを期待せずにはいられません。

看護師の中で男性が占める割合の変遷

職種 2010年 2004年 2002年
看護師 5.6%
(53,748人)
4.2%
(31,594人)
3.4%
(22,189人)
准看護師 6.3%
(23,196人)
5.9%
(22,838人)
5.5%
(21,269人)
保健師 1.3%
(582人)
0.7%
(281人)
0.4%
(148人)

上記の図を見ても分かるように、徐々にではありますが看護職員の中で男性の割合は伸びています。この勢いを保てば、いつかは3割、4割という時代が来るかもしれません。その日まで、頑張っていきましょう。

男性看護師の復権体験談を紹介

最後にベテランの男性看護師さんのお話を紹介したいと思います。ようやく多くの病院で1人2人は見かけるというまでに増えてきた男性看護師ですが、そこまでには長い道のりがあったのです。

ベテラン男性看護師の体験談

男性看護師私は20年ほど看護師をしており、まだ看護師なんていう呼び方はされず、看護婦と区別するために男性が“看護士”と表記されていた時代から勤めています。病院にもよるのかもしれませんが、まだ私が若い頃は、男性の場合、精神科と手術室くらいしか配属先はありませんでした。また病院外でも、知り合いに「看護士をしている」なんていうと「男なのに?なんで?」という反応が当たり前。

それがここ10年くらいで一気に変わりましたね。特に5年くらい前あたりから、職業を聞かれて「看護師」と答えても、ごくごく普通の反応が返ってくるのが当たり前になりました。“あり得ない存在”が“珍しい存在”になり、今はさらに“マイノリティだけど時折いるよね”というくらいに変わってきています。

医療は複雑化しており、男性のほうが向いている場面というのも出てきました。複雑な手術の補助や、救急での瞬時の判断、力仕事の多い部署などです。この調子でどんどん男性看護師が増えて、私が定年退職する頃には、半々までいくと良いですね。

個人的には、男性患者のケアは男性看護師が、女性患者のケアは女性看護師が行うというのが理想だと思います。もちろん、人数不足の時などはそうも言っていられないでしょうが、余裕のある時は…それくらいまで行くと良いですね。