未曾有の大惨事を巻き起こした震災から急ピッチで復興が進む今、岩手の医療状況はどのような状況にあるのか、調査してみました。

岩手の医療事情は深刻

震災後の岩手の医療震災後の岩手の医療はどうなっているのでしょうか。

あの忌まわしい大震災から既に幾つもの季節が過ぎましたが、あの教訓を忘れてはいけません。

仮設住宅への転居が終わってすべての避難所が閉鎖されるまでには、震災から半年を要しました。その間ずっと、避難所での臨時診療で、衛生管理や慢性疾患治療が行われていたのです。こういった継続的、2次的な災害医療が円滑に進むよう将来に向けた支援制度の整備が必要でしょう。

実際、災害から1年が経過しても病床を復活できない病院が多く、診療を再開した被災地の県立病院3ヶ所のうち、病床を復活させていたのは県立高田病院1院だけでした。残る2ヶ所の県立病院である大槌病院と山田病院は、仮設診療所で外来患者への対応を行うだけで精一杯という状態のままだったのです。

もちろん悲観的な話しかないわけではなく、岩手県の周産期医療情報ネットワーク『いーはとーぶ』に保存してあったデータを利用できたおかげで、津波によって母子手帳を紛失した妊婦にスピーディーな再発行ができたという例もあります。

この『いーはとーぶ』は母体・新生児搬送体制を確立して周産期統計を正確に把握することを目的としたツールに、周産期の地域医療支援という側面も加えたもの。震災時は停電とネットワーク断絶の影響でシステム運用ができませんでしたが、サーバー内の情報が失われなかったおかげで、母子手帳の早期再発行に繋がったわけです。

良い話も悪い話も含めて、岩手医療の現状を知っておくことは、被災地の看護師として復興を支えていく中で必ず役立ちます。看護記録をどのように管理するか、医師とどんな連携を取れるのか、震災の教訓を生かせる部分は随所に存在します。

岩手の医療事情また、2年が経過した今でも震災の記憶によって心に問題を抱えている方が多くいらっしゃいますが、そういった方々のケアもまた、岩手県の医療を考える上で重要です。

それでなくとも東北の北部3県(青森・秋田・岩手)は医師不足が顕著な地域。特に1県で四国全域と同じレベルの面積を持っている岩手県は、管轄領域が広すぎる事もあり、県内にバランス良く医師を配置することができず、医師偏在という問題まで抱えています。

県全体としても人口10万人あたり191人の医師しかおらず、全国平均の224.5人に満たないというのに、地域による医師の偏在問題までが問題化しているのです。

ちなみに、岩手県は9つの2次医療圏に分かれていますが、盛岡保健医療圏以外の医療圏においては医師数が県平均を下回っています。要するに、岩手の医師は盛岡だけに集中しているということですね。

震災後、さらに医師不足&偏在問題が加速する岩手県

岩手が抱える医師不足とその偏在状況を、より明確に把握して頂くために、以下に岩手県内の各2次医療圏における人口10万人あたりの病院勤務医数をまとめてみました。参考として、日本全国の平均値との乖離状況も添えております。

岩手県の病院勤務医数 岩手県平均との差 日本全国平均との差
盛岡…180人 +65人 -26人
二戸…91人 -24人 -115人
久慈…85人 -30人 -121人
宮古…57人 -149人 -121人
釜石…77人 -58人 -129人
気仙…84人 -21人 -122人
胆江…81人 -24人 -125人
両磐…84人 -21人 -122人
岩手中部…76人 -39人 -130人

上記は2012年のデータですので震災から1年後になります。震災による医師、看護師の流出も相まって、かなり憂慮すべき状況になっているのがお分かりになるかと思います。岩手の医療従事者はこういった事実を見つめ、その上で自分に何が出来るかを考えて頂ければ幸いです。
以下に示す各ページでは、岩手の医療の現状について、さらに踏み込んだ情報をまとめていますので、よろしければ併せてご覧下さい。

震災後の現状~岩手県における医療問題

ただでさえ医師不足に悩まされていた岩手県は、あの3.11を受け、さらなる苦境へと陥ってしまいました。震災から1年か経過しても尚、震災前の水準で医療を提供できていない病院、診療所も数多く残っています。特に宮古、釜石、気仙、久慈といった沿岸部は医療復興が大きく遅れているのが実情。こちらでは、その現状を詳しくレポートしていますので、是非ともご覧下さい。

アイコン震災を経た岩手県の医療事情

東日本大震災~被災地医療の裏側

最近、被災者の医療支出の減少や、被災地における外来患者の減少といったデータを根拠に、“岩手は復興が進んできている”と断定するようなニュースを目にする事が増えました。しかし、そういった統計データが実情を正しく反映しているとは限りません。
こちらでは統計データの不備を分析し、岩手県の医療事情がどういった状態にあるのかを細かく紹介していきたいと思います。

アイコン被災地医療の真相~統計のウソ

岩手の医療現場が抱える問題~改善策は?

岩手の医療現場は、震災を経て一変したとはいえ、それ以前から問題が無かったわけではありません。医療過誤を引き起こしかねないほどの疲労を招く過密シフトや、本来の業務と無関係な雑用で時間が奪われるといった問題など、他業種の方に話しても信じてもらえないような実態がぞくぞくと出てきます。そうした医療ミスに直結するような問題だけでなく、岩手で発生したニセ医師事件まで、医療現場に潜む問題を看護師の視点から多角的に解説。

アイコン問題が山積…医療現場の実情

岩手の看護師育成&支援制度

看護師不足が顕著な岩手県ですが、何も県は手をこまねいて見ているわけではありません。岩手県のナースセンターでは、優秀な看護師を育成し、少しでも県の医療レベルを向上するための育成研修として、最新の化学療法に関する教育や、疼痛ケアに関する研修を提供しているのです。もし、自分に必要なスキルを習得できる研修を見つけた時には積極的にそのチャンスを活用し、岩手の看護を牽引するような人材へと成長していって頂きたいと思います。スキルアップ志向の看護師さんは要チェックです!

アイコン岩手県の看護師支援制度

潜在看護師の現場復帰が岩手を救う

全国に55万人以上もいるとされている潜在看護師。実は、この潜在看護師の10%が職場復帰するだけで、日本の看護師不足はほぼ解消されるという試算が出ているのをご存じでしょうか?こちらでは岩手の潜在看護師に向けた復職支援を紹介していますので、もし復帰の意思がある看護師さんがいらっしゃれば、一緒に岩手の医療を牽引して頂きたいと思います。

アイコン潜在看護師の復職支援制度